国宝伴大納言絵巻を見る。
東京の出光美術館である。幸いなことに、上野ではない。
それ故、ゆっくりと時間をかけて楽しむことができた。感謝。
応天門の変という平安時代の史実に基づいたストーリー絵巻である。
主人公は、伴大納言こと伴善男という、出世欲のかたまり男。
ま、いつの時代もそこらで見かけるような人物だ。
左大臣源信を失脚させようと、放火の罪を着せる。
しめしめと、当初は目論見どおりことが運び、にやりの大納言。
しかし、子供の喧嘩をきっかけに、放火の目撃をしていた親がついに口を割る。
噂は風のように広がる。
恐い恐い。人の口に戸は立てられない。
結末は、大納言の放火が露見し、ついには遠国への流刑。
めでたし、めでたし。
別にどうという話でもない。
しかし、簡単に説明しただけでもこれくらいはかかる話。
これが、映像でも見ているかのように展開されているのである。
絵画で。
ここが絵巻物の尋常でないところ。
絵巻は左手で開きながら、同時に右手で閉めていくのが見方。
つまりはテレビ画面のようにある部分だけが開かれていて、変化していく。
アナログなスクリーン。
まずは、火事場に向かう検非違使、そして野次馬。
火事は一大イベントだったに違いない。
火元の近づくと、人々の顔は火の照り返しで赤くほてっている。
リアル。
また、風上には位の高い人たちが、物見遊山のように楽しげに見ている。
なかには、これ幸いと、女性の後ろにまわり痴漢行為をはたらいている不貞の輩も登場
数百人の人が、個性的に描かれている。
民衆はおかしみにあふれ、
高官はふっくらとした顔立ちで、贅沢な暮らしぶりが窺える。
役人天国は今に始まったことではない。
この絵巻の、シンジラレナーイは
数百人の群集ひとりひとりを、一切の下書きをせずに描いていること。
なんという筆の才。
それ故に、群集の動き、表情がリアルで楽しい。
ほんとうに、絵というより動画。
それがこの絵巻の圧倒的な描写力。
あのダビンチの400年前に描かれているのだから、あいた口が塞がらない。
この絵巻物そのものが、ミステリーの文学アンド絵画。
日本のアニメ、漫画好きはDNAだったのである。
動く絵画。
このほかに、鳥獣戯画、源氏物語、信貴山絵巻。
いずれも、必見。
しかし、伴大納言絵巻、見逃しては人生の後悔になる。
ぜひ、足を運ばれるように。

